先進光学衛星のシミュレーション画像を用いた森林被害木検出の実証実験

 近く打ち上げが予定されている先進光学衛星「だいち3号」ALOS-3の林業分野での活用可能性についてJAXA(宇宙航空研究開発機構)から委託を受け、2017年度~2021年度の5年間、信州大学とともに当社は実証実験に参画しました。


 先進光学衛星のwebサイトはこちらからご覧いただけます。 JAXA | 先進光学衛星「だいち3号」ALOS-3

背景および目的

 近年、気候変動などの影響により松くい虫被害やナラ枯れ被害などの森林被害が深刻化しており、被害地の拡大などが問題となっています。拡大を防ぐためには正確な被害情報を把握する必要がありますが、地上踏査では見落としも多く、また広範囲を調査するためには膨大な時間と労力が必要となります。人工衛星は広域の画像を取得することができるため、ALOS-3のシミュレーション画像を利用した森林被害観測の可能性について、実証を行いました。国産の光学衛星であるALOS-3での被害観測が可能となれば、海外の衛星のみに利用が限定されている現在と比較して安価かつ簡便にデータを入手できるようになります。これにより広域での森林被害把握を進めることができるようになると期待できます。


対象

 今回の実証では、2種類の森林被害を対象としました。1つは、カミキリムシが媒介する線虫によりマツが被害を受ける松くい虫被害です。木材価値の低下や風倒の危険性があるのはもちろんのこと、マツタケ産地ではマツタケの価値低下の原因にもなり得るため、林産業関係者にとっては大きな問題となっています。もう1つはカシノナガキクイムシが病原菌を媒介することを原因として広葉樹が被害を受けるナラ枯れ被害です。こちらも現在被害地が拡大しており、特に東北地方では急激に被害が増加し問題となっています。

各地の被害状況や解析ニーズを鑑み、松くい虫被害については長野県伊那市、ナラ枯れについては秋田県仙北市を対象地としました。


方法

 解析には信州大学が開発し、当社が独占的実施権を保有する知財技術である「松くい虫の被害区分算定方法及び松くい虫被害区分算定装置」(特許番号:6544582)を応用しました。当該技術は2016年に機械学習を応用して開発されたもので、アメリカの商用衛星データを使用することを前提としています。今回はこの技術を拡張し、ALOS-3シミュレーション画像でナラ枯れ被害木を対象とした解析が可能であるか否かという点に重点を置いて検証を行いました。なお、ALOS-3シミュレーション画像は既存の衛星データに処理を加えることで作成しました。


結果

 衛星画像を解析し、以下のような被害木マップを出力しました。

 被害木の抽出精度を検証した結果、9割以上の精度で被害木の検出が可能であることが明らかになりました。ALOS-3相当のデータでは観測可能なバンドが多く、被害木と健全木の区分に有効であったと考えられます。

© JAXA/信州大学、Product © 2017 Maxar Technologies

マツ枯れ被害木マップ(長野県伊那市)

© JAXA/信州大学、Product © 2017 Maxar Technologies 

ナラ枯れ被害木マップ(秋田県仙北市) 点線で囲われた赤い点が被害木

まとめ

 人工衛星で取得した画像を用いて解析を行うことで松くい虫・ナラ枯れ等の被害を広域的に抽出できることが実証されました。ALOS-3の運用が開始されれば、海外衛星に比べて、手軽かつ安価に衛星画像を活用することができるようになります。地域単位での被害傾向の把握にも有効でしょう。

 また、当社では小範囲で被害木の位置をより正確に特定し、適切な処理を行うためのサービスとして、ドローンを活用した被害木の計測・解析サービスも行っております。松くい虫やナラ枯れの被害でお困りの方、興味のある方はお気軽にお問い合わせください